目が合ってしまったら、反射的に手に入れてその日のメニューが決まってしまう食材がある。松岡家特有なのかそうでないのかは分からない。
死んだ母親にとって、それは「イカ」だったらしい。
「今日、買い物行ったらイカの奇麗なん売っとってん。」
夕飯の食卓にソレを並べるときの常套句だ。
出てくるのは、子芋と一緒に煮たやつかカレー粉炒め。新鮮やったら刺身と違うんか?
子供ながら疑問を持っていたことを覚えている。
そんな母にしてこの子あり。
オレの場合も大したことは無い。
スーパーで段ボール箱を開けっぱなしにして並べられた特売品、「ジャガイモ、タマネギ、ニンジン3つ100円」を見た瞬間に、その夜のメニューはカレーに決まる、みたいな。もっとも、これはスーパー側の策にハメられた感満載のパターン。1人で子育てしていたときには、食い盛りでもあり貧乏でもあったから、思い出には苦さも残っている。
子供たちが何とか独り立ちを済ませ、新しいパートナーとの生活も穏やかに続くなか、新しい「出会い」と巡り合った。その名は「三つ葉」。
我が家のベランダジャングルにあるプランターに、ほぼ自生している三つ葉の生命力がすさまじい。
あるとき、どうしようもなく大きくなって、間引く必要が出てくるときに遭遇する。
「アレか。」
三つ葉を食すために、ご時勢がら大幅に値段を上げている卵やタコなどの食材を買ってしまうのがどうだか…なんやろうけど、美味いものは美味い。
ひと目会ったその日から、 恋の始まることもある。
見知らぬあなたと、見知らぬあなたに、デートを取り持つパンチでデート的な余白がある暮らしを保つ大切さは、たこ焼きのタコみたいやんけ…と、噛みしめながら旨味を愉しんだ。